子どものやる気を引き出すスポーツ声かけのコツ:内発的動機を高める親の言葉
ユーススポーツに励むお子さんを持つ保護者の皆様は、日々、お子さんの成長を見守り、サポートされています。その中で、「どうすればもっとやる気を出してくれるのだろう」「どんな言葉をかければ、この子の力になるのだろう」と悩むこともあるのではないでしょうか。単に「頑張れ」と声をかけるだけでは、時に子どもの心に響かなかったり、かえってプレッシャーを与えてしまったりすることもあります。
この変化の激しい時代において、スポーツを通じて子どもたちに培ってほしいのは、自ら考え、行動し、困難を乗り越える力、つまり「人間的な成長」です。そのためには、外からの強制ではなく、子ども自身の内側から湧き出る「やる気」を育むことが極めて重要になります。今回は、子どもの内発的な動機づけを高め、スポーツを通じて豊かな人間性を育むための声かけのコツについて深く掘り下げてまいります。
内発的動機づけとは何か
まず、子どものやる気の根源となる「内発的動機づけ」について理解を深めましょう。
内発的動機づけとは、外からの報酬(褒美、罰、他者からの評価など)を目的とするのではなく、「それ自体が楽しい」「興味がある」「もっと上手になりたい」といった、活動そのものから得られる満足感や喜びによって行動が促される状態を指します。
一方、外発的動機づけは、「ご褒美がもらえるから頑張る」「怒られたくないからやる」といった、外部からの刺激によって行動が促される状態です。短期的な効果はありますが、長期的な継続性や、主体的な学びにはつながりにくいとされています。
スポーツにおいて、子どもが真に成長するためには、この内発的動機づけが不可欠です。内発的なやる気がある子どもは、たとえ困難に直面しても、自ら解決策を探し、工夫し、諦めずに努力を続けることができます。
内発的動機を高める声かけの具体的なポイント
では、どのように声かけをすれば、子どもの内発的動機を高めることができるのでしょうか。ここでは、明日から実践できる具体的なアプローチをご紹介します。
1. 結果よりもプロセスと努力を評価する
試合の勝ち負けや、シュートの成功といった「結果」だけでなく、そこに至るまでの「プロセス」や「努力」に目を向け、具体的に言葉で伝えましょう。
良い声かけの例: * 「あの場面で、最後までボールを追いかける姿勢が素晴らしかったね。」 * 「練習でたくさん取り組んでいた、あの技が出せたのはすごいね。努力が実を結んだね。」 * 「負けてしまったけれど、チームのために粘り強く守っていた姿は、みんなの心に残ったと思うよ。」
避けたい声かけの例: * 「なんでシュートを決められなかったの。」 * 「勝ててよかったね、次はもっと点数を取ろう。」
2. 子どもの主体性を尊重し、考える機会を与える
子ども自身に考えさせ、自分の意見や感情を表現する機会を与えることで、自己決定能力と問題解決能力が育まれます。
良い声かけの例: * 「今日の試合、どうだった?何か気づいたことはあった?」 * 「もし次、同じ状況になったら、どうしたらもっと良くなると思う?」 * 「君は、どんなプレーをすることが楽しいと感じる?」
避けたい声かけの例: * 「コーチが言った通りにしないからダメなんだ。」 * 「もっとこうしなさい。」
3. 失敗や挫折を成長の機会と捉えるメッセージを伝える
子どもは失敗を恐れるものです。しかし、失敗から学ぶことこそが、最も大きな成長の糧となります。挑戦を肯定し、学びを促す言葉を選びましょう。
良い声かけの例: * 「今回はうまくいかなかったけれど、この経験から何か学べたことはあったかな?」 * 「新しいことに挑戦することは素晴らしいことだよ。その気持ちが大切だね。」 * 「次にどう活かすかを一緒に考えてみようか。」
避けたい声かけの例: * 「だから言ったでしょう。」 * 「また失敗したの。」
4. 安心感と無条件の愛情を伝える
スポーツの結果に関わらず、「どんな君でも大好きだよ」というメッセージを伝えることは、子どもの心の安定と自己肯定感を育む上で非常に重要です。
良い声かけの例: * 「試合の勝ち負けは大切だけど、それ以上に君が楽しんでプレーしていることが一番嬉しいよ。」 * 「君がスポーツを通して色々なことを経験できていることが、お父さん(お母さん)はとても嬉しい。」 * 「どんな結果になっても、全力で頑張る君を応援しているからね。」
避けたい声かけの例: * 「もし勝てなかったら、もう練習に連れて行かないよ。」 * 「次、良い結果を出さないと、もう見に来ないからね。」
ある保護者の声:声かけを変えたら、子どもの目が輝き始めた
ある保護者の方から、このようなお話を聞きました。 「最初は、子どもが試合に勝つことや、良いプレーをすることばかりを気にして、『もっと点数を取って!』『なんで今のができなかったの!』と、つい感情的に声をかけていました。子どもは次第に、試合中にこちらをチラチラ見るようになり、楽しそうにプレーしなくなってしまったのです。
ある時、このサイトで内発的動機づけについての記事を読み、自分の声かけを見直しました。結果よりも、子どもが練習で努力したことや、仲間と協力できたことを具体的に褒めるようにし、試合後も『何か気づいたことはあった?』と問いかけるようにしたのです。すると、最初は戸惑っていた子どもが、徐々に自分の言葉で試合を振り返るようになりました。
そして何よりも、子どもが心からスポーツを楽しむようになり、練習にも以前より意欲的に取り組むようになったのです。目の輝きが全く違って見えました。親である私自身も、結果に一喜一憂するのではなく、子どもの成長のプロセスを見守る喜びを感じられるようになりました。」
このような事例は、声かけ一つで子どもの内面、ひいては親子の関係性が大きく変わる可能性を示唆しています。
まとめ:親も子どもと共に学び、成長する
ユーススポーツにおける親の声かけは、単なる応援の言葉を超え、子どもたちの人間的な成長を促すための重要なツールです。結果を求めすぎず、子どもの努力やプロセスを認め、主体性を尊重し、失敗を恐れずに挑戦できる安心感を与えること。これらの声かけは、子どもが内側から湧き出るやる気を持ち、スポーツを心から楽しみ、そして自らの人生を切り開く力を育む土台となります。
私たち保護者も、子どもと共に学び、成長していく旅の途中です。焦らず、一人ひとりの子どものペースと個性を尊重しながら、今日から一つでも、ポジティブな声かけを実践してみてはいかがでしょうか。その積み重ねが、お子さんの未来を豊かにする確かな一歩となるでしょう。